この目に映る一切の情景 2

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 その冬、木ノ葉の里の忍たちは、ワクチンと治療薬の搬送に多忙を極めていた。
 新型の伝染病の大流行は半年前から予測されていたが、急増する感染者数に対して製薬会社の生産量が間に合わず、特に過疎地への配布は遅れがちになっていた。
 忍の足と広範囲に張り巡らされた独自のルートは、緊急時、未開の深森や原野でその利点を発揮し、重用される。国からの要請だけでなく、国際的な医療支援団体が近隣国へ薬を寄付する場合も同様だった。
 通常の軍務や民間から舞い込む依頼を処理しながら、伝染病対策にまで人員を割くのは容易ではない。里全体でのフル稼働が連日続く。
 ナルトも例外ではなかった。体力に長けた彼は、誰よりも長い距離を速く移動することが求められた。



 基本的にナルトの能力は、規格外に強い敵との交戦に備えて特化されている。今回のような、いわば走って届けるだけの任務に借り出されることはあまりない。故郷を後にして外出する度に、もし自分の留守中に里が狙われたらという不安は、今回に限らず常にナルトの心に付き纏う。
 実際、現在の里の守りは手薄になっている。他の街と同様、里内でも感染者は増える一方だ。休暇を与えられている人員は、実は漏れなく療養中、というのが本当のところだった。
 だからと言って薬の搬送に人手を出し渋るわけにはいかない。余裕の無さは、小隊の編成にも影響してくる。ナルトと行動を共にするのは、中忍の同僚たちだけだった。万が一の時に、ナルトの力を制御し監視する役割の上忍は、一人も同行していない。
 六か所の搬送先を四人で受け持ち、途中で二手に分かれ三か所を回る。
 今は幸いに何事もなく、例えば、行方を敵に知られて待ち伏せされたり、などという最悪の事態に陥ることもなく、無事に納品を完了させて、皆と一緒に帰路を急いでいるところでは、あるのだが。
 この任務にナルトが加わっていることや、運搬経路についての詳細を、おそらく五代目は周囲に伏せているだろう。そして、それが都合良く里の長老たちの耳に入らないで済むということも、多分無くて。
(早く帰らねぇと)
 綱手が彼らから小言を喰らうことは間違いなく、喰らいっぱなしであの彼女が黙っているわけもなく、言い返しては何度でも喧嘩するに決まっていた。以前は、現役火影と相談役の間にそんな確執があることも、自分が体よくその諍いの種にされていることも、まったく知らなかったが、今は違う。
 自分の任務の成功が、綱手の方針の正しさを証明するために最も有効な手であることを、ナルトは理解するようになっていた。
 早く帰還して報告を済ませ、寄せられる期待や信頼に応えたかったし、そういう自分を皆に見せたいと思う。
(ホント、のんびり茶でも飲みながら仕事できるくらい、楽させてやりてぇけど)
 そういう域に達するには、自分はまだまだ色々足りない。
「おい、ナルト! 速ぇよ!」
 後方からシカマルの声が飛んできた。
「え? あ、ああ」
「帰り道になに張り切ってんだ、てめーは」
「わりィわりィ、いつものクセでつい」
 あははは、と笑って誤魔化しながら速度を落とす。隊列が決まっていてもいなくても、何かと先頭を切りたがるのは、確かに昔からのナルトの悪い癖で、シカマルに改めて指摘されるのは少しこそばゆい。
「お前、最近休み取ってねーだろ」
 何か気がかりがあるかのような表情で、こちらを見てくる。
「今回も仮眠無しで走り通したからな」
「それは他のみんなも同じだってばよ。ちょっと長距離の任務が連続してっけど、オレってばこんくらいぜんぜん平気だし!」
「や、そーじゃなくてだな……」
「なんだってばよ?」
 シカマルは一旦後方を追って来ているキバといのに、ちらりと視線を流したが。
「いいや、もうすぐ着くし。めんどくせーことは帰ってからな」
「?」









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