Cocoon Bed 16
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その後、ナルトを風呂に追いやって、カカシは一人リビングのソファにいた。
夜は静かに更けてゆく。
厚いカーテンは、窓の向こうの凍てついた空気を完全に遮断していた。
中断していた夕食を片付け、食後のお茶など飲んで、カカシは待望のお手製生チョコにようやくありついた。
甘いものは滅多に食べないカカシだったが、たまに少量ならば嫌ではない。むしろ、本当に美味しいものならば、そしてそれがこんなに心のこもった愛情尽くしの贈り物であるならば、大歓迎だ。
美味しい、特に色の濃い方の苦みが好みだ、と喜べば、ナルトは満足したらしい。満面の笑みになって、前もって母ちゃんと相談して色の違うココアを用意したのだ、と得意げに解説してくれた。
昨日の晩、急遽取り決められた四代目の国境視察のメンバーから、カカシははずされてしまった。
ミナトからは昼間のうちにその理由の説明を受けていた。今年のバレンタインデーぐらいはまともに過ごせ、というのが主な趣旨らしかった。
もともとミナトは、女性関係のような踏み込んだ問題に対して、あまり詮索したり世話を焼き過ぎるようなことはしない。そうする必要もないくらい、話していないことも特に思い当たらないぐらいの自然な信頼関係が、二人の間にはある。
それなのに、今年に限ってそんなふうに言われたから、カカシはショックを受けた。
長い独り身を不便に思ったことはなかったし、寂しさを覚えることもなかった。相手を探す必要性も特に感じず、別に一生独りでも問題ないぐらいの意識でいた。これだけ親しい間柄なのに、それを理解されてなかったのが衝撃だった。
その衝撃と共に、カカシは自分の裡の声をはっきりと聞いた。
(いや、あの。オレが好きなのは、あなたの息子さんですけど)
天啓の閃きのように、青天霹靂のごとく、その内なる叫びは強烈にカカシ自身を打った。
(オレは、好きな相手がいないんじゃなくて)
(ナルトを諦めたわけでもなくて)
留守役を了承し、今朝も火影のスケジュールに合わせて早くから出勤したカカシに、あの夫婦はさらに追い打ちを掛た。
曰く、この留守の間はナルトを頼む、と。ミナトとクシナは口々に言い置いて風のように里を発ってしまったのだ。
クシナに至っては、うちに泊まってもいいからね、とまで言っていた。何かの聞き間違いかと思ったが、そうではなかった。
はいはい、いってらっしゃい、お気をつけて。と普段の調子で、眠そうな目のまま見送りを済ませ、カカシは項垂れた。
自分が何のために、ずっと身持ちを硬くして長い間過ごしてきたのか、あの夫婦は全く理解していないらしい。それも仕方の無いことだった。カカシ本人とて今日になってようやく自覚したのだから。
あの二人に、誰よりもあの二人に、ナルトとのことを認めて欲しかった。
ナルトがカカシに好意を告げていて、その返事を保留にしたままでいることを彼らは知っていたはずだ。幼い子供の戯れ言に適当な返事をしているよう見ても、実は結構本気で大真面目だということを、うっすらとでもいいから感じ取って欲しかった。
何の警戒心もなく泊まれだなんて。
そこまで意識されていないのか、と悲しく感じる自分を発見して、いっそ新鮮な気分だ。
ナルトには詳しく話さなかったが、今日連れて行かれそうになった飲み会も合コンまがいの集まりだった。まさしく逃げ出すようにカカシはナルトのもとへ走ってきたのだ。
(ミナト先生、クシナさん。オレは他の女性たちにはホントに興味ないんです。ずっとあの子の、ナルトの成長を待ちながら、潔白第一で、今まで)