Cocoon Bed 4
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
TOP
しかし、面と向かって急に、旅に出る!なんて言われれると、動揺せずにはいられない。自来也が次に帰ってきたときに本当に連れて行かれてしまったら、クシナは果たしてナルトのいない毎日に耐えられるだろうか。その寂しさを想像してみるだけで、なんだか泣きたくなってしまう。
「オレ、もっと強くなりてぇし、そのためにはそれがいいんだってばよ」
「うん」
「ホントは里、離れたくねぇしさ。カカシ先生とずっと一緒にいてーし、このまま四人でって、思ってたけど。毎日、そりゃ、それなりに楽しいけどさ。なんか……最近は」
「このままじゃだめかもしれないって、思うのね」
「うん、そういうふうに感じることが多くて。カカシ先生のそばにいるのが……辛い」
「……カカシと何かあったの?」
「何もない。何もないから……オレ、辛いんだってば」
やはり何も進展はしていないらしい。しても困る……とも思うが、我が子が小さな頃からこんなに大事にしている初恋が実らずに苦しんでいる姿を、横でただ見ているだけ、というのもつらいものだ。カカシがこの想いに応えれば、きっとこの子は毎日幸せに笑って過ごせるのだろうか、と考える。こんなふうに泣くこともなく。
かと言って、カカシに向かってうちの子を惑わせてくれて一体どういうつもりだ、などとクシナやミナトが詰め寄る問題でもない。
もし、振るなら早く振って諦めさせてやってくれ、などと親から言ってしまったら、ナルトがかわいそうすぎるし、だからと言って、こっちらからカカシに責任を取れなどと迫るのは……もっとヘンだ。
なんで男なのかなぁ、と内心で大きなため息をつく。ナルトは活発でやんちゃな、どこから見ても男の子らしい男の子だ。任務の活躍では男前な一面も見せていると聞く。時々どきっとするくらい大人びた表情をすることもある。どんな若者に育つか、ミナトに似ていたらいいなぁとクシナは一人で想像して楽しみにしているのだが、何でか、この子のカカシに対する気持ちだけは小さな頃から、もうどこからどう見ても恋する少女そのものだっだ。
普段女の子扱いなどしようものなら腹を立てて騒ぐのに、プライベートでカカシの前に出ると百八十度変わるのだから見ていて面白い。小さかった頃、カカシのお嫁さんになるのだ、と本気で言い切っていた時と、気持ちはまったくかわっていないようだ。一途なものだと思う。
百歩譲ってナルトがもし本当に女の子だったら、カカシは嫁ぎ先としては、まぁ悪くはないだろう。年は離れているが、最も信頼が置けると言ってもよい身内同然の相手だ。ナルトの特殊な事情や、実はあまり自由ではない身の上についても、全く心配がいらない。それがメリットと言えばメリットだろうか。
クシナは遥か昔にミコトと話したことを思い出した。子供の頃の他愛もないお喋り。二人ともお嫁にいって、互いに生まれた子供が男の子と女の子で、もしその子たちが結婚したりなんてことになれば、親戚になれるね!という、ありがちな話題だった。うちは一族は血族結婚が基本だから難しいけど、だからこそもし実現できたら、遠い国の有名なお芝居みたいで、そう、ロミオとジュリエットみたいで、かっこいいよね、などと言っては笑い合った。実際にはそうはならなかった、という話だ。
男同士だったら諦めるのが普通なのになぁ……と。思考は振り出しに戻る。
「……ナルトは本当にカカシが好きなのね」
ナルトは無言で頷いた。
「今すぐ恋人になりたいってことだよね」
また頷く。
「でも、ねぇナルト、そういうのは、あんたには、まだちょっと早いかもしれないし、カカシもそう考えてるんじゃないかなぁ」
「早くない。父ちゃんと母ちゃんが付き合い始めたの十五の時だって、オレ、知ってるってばよ!」
「え、ええっ!? だ、誰に聞いたってばね!?」
「誰でも知ってるってば。里では有名な話なんじゃねーの?」
「あはは、あ、そう。て、照れるってばね」
少なくとも年齢を理由に先延ばしを図るのは無理そうだ。ここまできたら、もう、なるようになるのを見守るしかないのかもしれない。クシナは内心で密かに盛大な溜息を吐いた。