Cocoon Bed 12
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リビングを駆け抜け、自室へ続く階段へ辿り着く前に、ナルトは鼻先からカカシの胸へ突っ込んでいた。
「ぶわっ」
「待てって言ってんでしょ」
「……部屋ん中で瞬身使うなってばよ!」
鼻を押さえながら、ナルトは目の前の相手を見上げ、抗議する。
「まぁ落ち付け」
「は、はなせっ!」
身を引いて向きを変えようとしたが、両肩をぐっと捕まえられて動けなくなった。
「お前、今、嫌って言ったな」
わざわざ確認されて、逃げ出したい気持ちは更に増す。
カカシを取り巻く人たちがあんなにたくさんいることを、以前のナルトはよくわかっていなかった。無知だった幼稚な自分も、格好悪い嫉妬も、これ以上見せたくない。だが、じたばた暴れる程度では、押さえる力は緩まない。
「なぁナルト、聞いてくれ。お前が仕事と私生活、区別しようとして真剣に頑張ってるのは、見ていてわかったよ。オレもそれを大事にしようと思ったんだが……」
ナルトは抵抗をぴたりと止めた。
「実際どうだった? この一年。働き始めて、視野も広がって。いろんな人たちといろんなことがあっただろ。新しい出会いも」
言われていることを理解するまでに、少しだけ時間が掛かった。同時に押し寄せてくる驚きに、ナルトは再びカカシを見上げる。二人の間で何が噛み合っていないのか、ようやくわかった気がした。
「オレより気になる相手だって、いたんじゃないの」
そのつもりになって下から覗き込んでみると、カカシは見たことのない表情をしている。どこか落ち着きが無いような、肩を掴む力の強さに余裕の無さが滲み出ているような。
「なに言ってんのセンセー」
ナルトは唖然とした。
まるで、こっちが感じていたことを鏡に映したように言葉にされた気分だ。
まさか、あの飄々とした態度の裏で、この人はそんなことを考えていたのか。
「そんなん、……いるわけねーじゃねーか……」
「本当に?」
「どうしてそうなるんだってばよ!?」
カカシの問い掛けが意外過ぎて、ナルトは大きな目をますます見開く。
本当に?って、本当に決まってる。それ以外に何があると言うのか。だって、と。ナルトは次に言う台詞を口にしかけ、だが咄嗟に声に出来なかった。
すごく恥ずかしいことを言おうとしている。
急激に体温が上がり、目を合わせていられなくなった。カーッと頬に熱が上がる。捕まえられたままもう一度硬い胸筋に額を預けた。
「せ、せんせぇが」
ぎゅっと目を閉じる。これは照れ臭い。やばい。
「うん?」
「いくらかかわる人が増えたからってさ。カカシ先生が、い、一番かっこいいのは、変わんねぇってばよ」
しんとしたリビングに、その声はやけに通りよく響いた。
顔中が、耳まで熱くなる。なのにカカシの身体の温もりは感じ取れた。
「ナルト、それ本当?」
「……うっせー。嘘言ってどうすんだよ、……こんなこと」
「もう一度言ってみて」
「ええっ!」
カカシは密やかに喉奥で笑う。耳に届かなくても振動は伝わってきた。
「……オレもねぇ、ナルト。受け取りたいチョコレートは、お前のだけだよ」
優しい声が降ってくる。
「他のはいらない」