どういう「好き」なの? 14
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(キスしながらだと、近いな)
ナルトの虹彩の模様まで、くっきりと見える。これは今までなかなかな拝めなかった眺めかもしれない。水色、空色、藍色と、放射状の線が複雑に重なり合う様子。睫毛の生え際まで。
何回か瞬き、カカシはその光景に思わず見とれた。
目が合う。
そっと唇を離した。わずかに上がる息。
(ナルト、お前も)
(オレの瞳を見てるのか、ナルト)
ふ、と笑みが漏れた。
(いいね。おまえとこうするの、悪くない)
「ナルト」
名前を呼びたい。急に湧き上がった思いにカカシは逆らわなかった。
「……せ、んせぇ……」
どうしていいかわからない、と言いたげな貌で、ナルトは力無く応える。
「オレの作った料理の味がする」
「……」
それは、センセーも。
と。舌足らずになる発音に、またその唇が欲しくなった。
頭蓋を包む手はそのまま、頤に掛けた指で、先程より少々強引に引き寄せる。
強く押し付け、味わうように食んで、吸い上げた。
(しばらく止められそうにないな)
やがて唇が離れ、ナルトは長く続いた口付けから解放された。
かなりの間、続けていた気がする。でも、そう感じるのは自分だけで、それほど長時間ではなかったのかもしれない。判らない。この家に入ってから時計を見ていないナルトには、もう時間の感覚が残っていなかった。
どうしようもなく恥ずかしくて、照れてしまって、それでもとても離れる気にはなれず、抱き締められるまま目の前の肩口に顔を埋める。左手で縋りついた。
カカシは何も言わない。キスは終わっているのに、彼の唇はナルトの額や耳朶、眦へと時折降りてきて、とても優しく触れてゆく。
甘く慈しまれ、大事に愛される、という体験は今までなかった、とナルトはじっと噛みしめた。
こういう方法で皆、人は人と触れ合うのだろう。
それを今こうして経験し、実感している。他でもないカカシの手の中で。広い掌は、ナルトの頭や肩だけでなく、背中を降り腰骨まで包んできた。その存在を主張するように、指に僅かな力を込められて、もうこの人にこの身体をどうされてもいい、と覚悟を決める。
もっと密着したくて、手の動きから伝わってくる意向に沿うように、腰と膝をいざり寄せ、首筋に齧りついた。
(これ、すんげー邪魔だってばよ……)
どうしても、がっちりと固定された大げさなギプスと包帯が、二人の間に挟まってしまう。
が、それ以上にナルトの注意を惹き付けるものが、目の前にあることに気付いた。
焦点も合わぬほどの至近距離に映る、耳垂、銀色の後ろ髪、白い肌。
(カカシ先生の、首筋……)
陽に当たることのない皮膚。これも滅多に見られないものだ。木ノ葉の忍服から着替えたカカシが着ているのは、淡い色の楽なTシャツで、襟元は緩く空いている。
つくづく有り得ないよなぁ、と嘆息した。
(オレ、触ってんの頸椎だし。目の前にあるの、これ、頸動脈だし)
(急所丸出しだってばよ)
まじまじと目の前の光景に見入る。この人がこんなふうに無防備に首筋をさらすのを目にするのも、人に触れさせるのも、自分だけなのだろうか。肺の奥がぎゅっと痛くなった。
嬉しくて胸が痛くなることなんて、なかなかない、と。そんなことを考えている間にも、カカシはまるでそうするのが当たり前のような自然さで、ナルトのこめかみへと唇を押しつけてくる。
(……オレも、ここにキスしていいかなぁ)
ナルトはわずかに顎を傾けた。
カカシの手が止まる。何事かが起こる気配を感じ取り、待っているようだ。どんな行動も、こんなに身体を触れ合わせていれば、全部バレるだろう。
緊張してきた。心臓が、どきどきする。
そっと、唇を押しつけてみる。
(うわわ)
肌の匂いを嗅ぎながら、少しだけ唇を這わせ、その感触を味わった。
「……なーにナルト。そこにキスしたくなったの?」
カカシはくすくすと小さく笑う。耳のすぐ傍で、楽しげに喉が鳴る音がした。