どういう「好き」なの? 8

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「――――……っ!!!」
 愕然と目を瞠って、座ったままカカシを見上げている。
 驚いて、声も出ないみたいだ。
 見る間にじわじわと、首筋から頬、額まで血が昇っていく。あっという間に顔は真っ赤になってしまった。
(かわいいねぇ)
 どうやって切り出そうか、口説くきっかけは、と。こちらは虎視眈眈と機会を伺っていたというのに。甘やかし過ぎだ、なんて。そんな可愛いことを言うから。
 無意識だったのだろう。あまりにも、あまりにも無防備な誘導。
 しかも便乗して見せれば、この照れ方。
 ゆっくりと歩み寄る。
 ナルトが里に帰って来てからずっと、極めてさりげなくではあったが、アプローチを試みてきた。感触は悪くない、いや、大いに脈アリだと、カカシには思えた。
 嫌われているわけがなかったし、むしろこちらが向ける好意を喜んでいることは、火を見るより明らかだった。
「少しは意識してくれた?」
 が、そう声を掛けた途端。
「!!!」
 がたーん! と、ものすごい音を立てて、ナルトは椅子から転げ落ちた。
「う、ぅ、うそ! 嘘ぉおおお!? えええええっ? な、なにそれ!?」
悲鳴が上がる。
「ちょ、ちょっとナルト、お前、大丈夫?」
 したたかに腰を打ちつけたのを見て、助けようと手を伸ばせば、
「ぎゃあぁぁああっ!!!」
 わたわた、じたばた、と腰を抜かしたまま壁の方へと逃げてゆく。
 やがて叫び声は途切れ、
「……」
「……」
 じっと見つめ合った。
 だんだんと、カカシの色違いの双眸が恨めしげに細められてゆく。
「それがお前の答えなの? やっぱり気持ち悪い?」
「ええっ!? いや、いやいやいや! そうじゃなくって!!!」
 必死に首を振るので、少し安心した。
 いや、だいぶほっとした。
 なのに。
「でも、でもでも! えぇええっ!? て。えぇええ――――っ!!??」
 まだ驚いている。まさしく驚天動地や晴天の霹靂あたりの言葉を全身で表現するかのように。
「いいから、こっち来なさいよ」
 手を取って引いてやれば、ナルトは未だに呆然と見上げてくるだけだ。
「ナルト」
「……っ!」
 名前を呼ぶだけで、過敏に震えて反応する。
 何度も言うが、可愛い。
 それにしたって、そこまで驚くことはないだろう、とカカシは肩を落した。何だか情けない気分になってくる。
「驚き過ぎでしょ、お前」
「うう」
「ま、いいけど」
 仕方なく、立ち上がらせるのは諦めた。手は握ったまま、こちらも座り込む。
 あともう一押しだ。
「なぁナルト、何日か泊らないか。一人じゃ何かと不便だろ」


 本当に、腰が抜けてしまったらしい。眩暈を起こしたのか、具合まで悪そうだ。
 落ち着くのを待って、居間のソファに連れて行った。水を飲ませ、冷やしたタオルを額に当てて、楽な姿勢で寝かせてやる。
(食後はマズかったか)
 胃に血液が集中し始めるところを、あんなに急激に頭に血を昇らせてしまって。これでは貧血やのぼせに近い状態になっても仕方ない。
 しかも相手は、すこぶる元気とはいえ、一応怪我人だ。
 脈に指を当てると、心拍数はまだ少し高いままだ。とくとくと小さくカカシの指先を打つ。
 常温に戻ったタオルを額から外すと、ナルトは今度はクッションに顔を埋めてしまった。
 や、照れ臭いんだろうな、とは想像がつくが、そこまで?
 何だかとても悪いことをした気分になってくる。
「なーナルト」
「うー……、せんせぇ……」
「もう機嫌直して?」
「べ、別に、怒ってるわけじゃねーってばよ……」
「まだ具合悪いか?」
「ん、もう大丈夫、だけど」
「けど、何?」
「なんか、くらくらするってばよ」
「あー、昼飯直後だったのは悪かった。そこは謝るよ」
「うん」
「言ったことは謝らないが」
「……」
「……」
 今度はノーリアクションか。
 一体どうしろと。
「なんかオレってばさ」
「うん」
「もしかして、幻術にでも掛かってんのかな……?」
「それは失礼だろ。何でオレがそんなことしなきゃならないの」
「だってさ、だってさー。何か信じらんねぇ」
(そんなに?)
 そこまで受け入れ難い現実なのだろうか。









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