どういう「好き」なの? 12

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 がつん、と、脳天をかち割られるようなショックを受ける。
「……一番も二番も三番もないよ。教え子に順番なんて、ない」
 震えそうになる声を抑え、かろうじて平静を装うが、ナルトの返答は容赦無かった。
「あったよ」
 あの頃の先生が目を掛けていたのはオレじゃなかった、と、ナルトは言外で糾弾する。
 確かに、あの時のカカシには優先順位があった。その注いだ時間、掛けた手間と情熱……全て持ち逃げされるなんて露ほども思わず、取り組む価値はあると、独り、信じていた。
 それが、この子の目にどう映っていたかも、感じ取っていた。
 かつての日常の記憶が、痛みと共に溢れ出す。
「そこで張り合わなくても……オレが好きなのは元からお前だけだ」
「張り合うところだってばよ。大人にとっては、それとこれとは別問題かもしんねーけど、あの頃のオレには全然分かんなかった」
 そう言われてしまえば、返事に窮するしかない。確かに、今更だ。言い訳めいている。
「オレ、初めて会った日に先生のこと好きになった。三人の中で一番強い忍になろうって、認めてもらうんだって、決めた。一番成績のいいヤツが優遇されんのは、実力主義の忍の世界じゃ、そんなん当たり前だしさ。悔しかったけど、我慢して頑張った。絶対、諦めねーって……」
「……」
「でもさ、いつまでたっても先生の一番にはなれない気がして、落ち込んだことも、たくさんあったってばよ」
「……ナルト」
「最近は、何のために何を頑張ってるのか、時々分からなくなる。強くなりたい気持ちと、好きな気持ちが、ぐちゃぐちゃになって。こんな、せっかく先生が好きって言ってくれてんのに……昔の不満ばっかり出てくんの。わけわかんねー……」
 言葉を失い、カカシは黙り込んだ。


 こうして本人から訴えられなければ思い出しもしないのは、明らかに自分の落ち度だ。
「……すまなかった。そんなふうに思わせてしまったのも、オレの至らなさだ」
 過去に受けた不当な扱いからの脱却は、ナルトの魂の欲求だ。カカシはその不足を埋めたくて彼の傍にいるのに、その自分がナルトを傷付けてどうする。
「お前らの対抗意識を煽るのは、切磋琢磨のためには良かったはずなんだが、結局、全部裏目に出たな」
 こうしてカカシと二人でいる時ですら、ナルトの口から転がり出るのは傷心と敗北の記憶。競い合い共に在るべき者を削り取られた、喪失の苦痛だ。
 最早自嘲しか浮かんでこない。
「オレの失敗だ。サクラとお前をこんなにいつまでも苦しめ続ける原因になった。ナルト、お前はオレにもっと不満をぶつけていいんだよ。お前たちにはその権利がある」
 この問題について、こうして二人で話す機会も今まで無かった。今耳にしたようなナルトの本音を聞くことすらも、自分はこれまでしていなかったのだ。逃げていた。
「……カカシ先生……そんなふうに思ってたんだ」
 静かにカカシの言葉へ耳を傾けていたナルトだったが、やがて、低く呟くように口を開いた。
「ああ」
「先生の失敗じゃねーだろ。オレは、オレのせいだって思ってる。むしろ、先生は失敗したオレにがっかりしてるんだって、思ってた」
「それはないよ」
 カカシのきっぱりとした否定に、ナルトも頷く。
 砂隠れの里へ向かう途中、計らずもイタチの幻術の中で顧みることになった自分の気持ちを思い出していた。
 あれはナルトの心の中での出来事、思い込みだ。現実のカカシの考えは、こんなにも違う。
 ここで互いに悔いても無意味だ。
「先生を責めたかったわけじゃないってばよ……。ただ、あの頃のオレがどう思ってたかは、絶対聞いてもらいたかったから」
「埋め合わせはする。だから嘘だなんて言うな。もう辛い思いはさせない」
「う……ん」 
 カカシがこれほどまでに深い罪の意識に苛まれていることを、ナルトは今までまったく知らなかった。元々、秘することが多く、あまり多くを語らない人だとは、感じていたが。
「先生、オレさ。今だから分かるけど……分かるようになったから話したんだけど、オレたちはみんな、充分大事にされてた。護られてた。そんで、先生は贔屓なんて全然してなかった」
「そう言ってくれるのか? ナルト」
「うん」
「でもなぁ……あの頃のお前たちにそう感じさせてやれなかったのは、力量不足だったな……」
 力なく肩を落とす。









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