ヒミツのごちそう 12

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 その後、続きは風呂で、とカカシの部屋のあまり広くはないシャワールームに連れ込まれた。
 結局カカシはナルトの足の間を借り、ナルトはカカシの口の中で遊ばれるようなことになって、最後は互いの温まった身体をさっぱりと洗い上げて終わる。
 単身用の浴槽で二人で一つのシャワーを使うと、ざあざあと落ちる湯の滝に打たれるのは、なんとも野生的な感じがした。目の前の男らしい体つきや筋肉に流れ滴る湯を眺めるのは、ナルトには斬新な経験だ。よくわかんねーけどかっけえ! と、今ひとつ表現力に欠ける感想を口にするナルトにカカシは、何がよ、と返すしかなかった。
 この部屋のベッドやシャワールームを二人で使うのが単純に嬉しい。付き合ってるって感じがする。タオルの貸し借りだけも特別扱いを実感できた。取るに足りないことかもしれないが、自分には大事なことだ、と。気付けば、恥ずかしげもなくそんなことを熱弁していた。
 カカシは笑いながら聞いていた。最中には、早くここに連れ込んでここでこうしてやりたかったと、ナルトを情熱的に口説いていたくせに、今はきっちりと服装も元に戻して、余裕の態だ。
 何でもないことのように、またおいで、なんて大事なことを軽く口にする。
 それそれ! もう一度言って、もう一度言って! と食いつくナルトの気持ちを、本当にわかっているのかどうか。
 髪まで乾き、熱いコーヒーと牛乳たっぷりのカフェオレを挟んで向き合う頃には、窓の外もすっかり暗くなっていた。せっかく陽が長くなりつつある季節なのに、こう曇り続きでは意味がない。
 そのうち、カカシはホワイトデーの三月十四日は、任務で里にいないことを切り出した。持たされた菓子の詰め合わせは好物ばかりで、例えばクシナやミナトが家の中で見掛けても、ナルトの年相応な味覚や好みをカカシがよく理解しているとわかる、卒のない贈り物だ。
 別れの時間が近付いていた。
 もう帰らなくてはならない。切りの良い頃合いだ。
 だが、ナルトにはどうしても席を立つことができない。名残惜しいなんて言葉では生ぬるいほど……ずっとここで、 こうしていたいと思った。
 離れたくない。夜はこれからなのに。
 楽しい時間はあっという間で、秘密の逢瀬はあまりにもあっけなく終わってしまう。



 あまりにもカカシと二人きりで過ごせる時間が乏しくて、恋しくて、どうすれば機会を増やせるのか、ナルトなりにいつも無い知恵を絞って考えていた。
 またカカシがうちに泊まりに来ればいいのに、と思っても、カカシにそう訴えるのも、両親に伺いを立てるのも、ナルトから口にするのは、どう考えてもハードルが高すぎる。
 今回のようにカカシの部屋を訪れても、例えば前もって両親に許可をもらい「父ちゃんと母ちゃんが泊まってきていいって言った」と言えば、カカシはナルトを帰らせることはないだろう。だが、両親に外泊の許可を求めるのは……無理だ。現実的に、そんなこと言い出せるわけがない。
 帰りたくない。一緒にいたい。だがナルトのそんな本音を押し通すことは、ナルトの大事な三人をとても困らせる。
 あと数年たてばいい話なのだろうが、とにかく今はまだだめだ。ナルトのことを本当に大切に考えている彼らだからこそ、困らせてはいけない。前回、それを身に染みて思い知った。
 黙ってしまうナルトに、カカシも思うことがあったのだろう、壁掛けカレンダーを覗き込み、ナルトを呼び寄せた。
「なぁナルト、さっきも話したけが、今月中にまたここへおいで。時間は必ず作る」
「……。カカシ先生」
 三月は忙しい。春を迎えるこれからの季節は、正月の前後以上に世間は慌ただしく、重要で難しい任務が増える。里の行事も大名家の行事も重なってくる。
 きっと、しゅんと俯いてしまったナルトを見るに見かねて、彼は難しい約束をしようとしている。
 そんなの無理じゃねぇ? と言い返しそうになる唇を噛んだ。
 離れたくないと思っているのは、自分だけじゃない。
「オレもさ、ナルト。この約束を支えにするよ。頑張るから」
 カカシが今日何度も繰り返し伝えようとしたこと。オレもだよ、同じ気持ちだよ。その心からの言葉が。
 ナルトにはまるで世の中の真実のすべてのように響いた。









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