ヒミツのごちそう 3

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 忘れもしないが、たったの三回しかなかった。
 キスされた日の夜は、思い出してはどきどきして眠れなかった。毎日一緒にいるばずなのに、それはあくまで上司と部下、教師と徒弟であり、班で任務に当たる仲間としてで、二人きりになれる時間は殆どなかった。
 寂しくて、恋しくて……どうしたら相手の時間を独占できるのか、考えて考えて、やっぱり眠れなくて。
 考える前に行動してしまうのが一番自分らしいはずなのに、現実はそう簡単にはいかないことはナルトの日常にはありふれていて、それは恋人になりたいという願いが叶ってもその辺りに大して変わりはないと思い知った。
 でもそんな独りの夜を過ごしたのは、
「あー、やっと……二人きりになれた」
 過したのは、きっと自分だけではない。
 カカシはゆっくりと息を吐き、低く囁いた。こんなにしみじみと喜びを滲ませた声は、緊張を解いて余程リラックスしていなければ出ないとナルトは知っている。
 カカシはさらにナルトの髪に鼻を埋め、毛先に纏わりつく外気の匂いを嗅ぐ。深く空気を吸い込む仕草に、肌の匂いを追われているのを感じ取って、ナルトは動けなくなった。
 この人の息遣いのこんな細かな意味合いも、自分は知っているのに。それほど近しい間柄になっているはずなのに。そうできる時間はあまりにも限られている。
 胸が痛い。息が苦しい。鼻の奥がつんとして、喉を塞ぐ何かが身体の中からせり上がってくる。
「カカシ先生も」
「んー?」
「カカシ、先生も、さ。オレと……ふたりきりに、なりたかった……?」
「そんなの、当然でしょ」
 ふ、とナルトの耳元で微苦笑すると、カカシは腕の中に閉じ込めた相手の身体を持ち上げた。
 そのまま移動して、ナルトは一番奥の部屋のベッドの上へと降ろされる。
「キスするのも久し振りだ」
 と言いながら、カカシはまたナルトのこめかみめがけて唇を降ろし、ちゅっと吸い付く。
「三回したね」
「うん」
「覚えてる?」
「覚えてるってば」
「一回目は大通りだったな」
 その日は里に帰り着いてすぐ、表門の内側で解散だった。
 次の任務の集合場所と時刻を確認し、また明日、の一言と共にカカシは瞬身の術で姿を消してしまったのだが、その直前に彼はナルトの頬に顔を寄せ、掠めるような素早いキスをした。
 頬への感触は間違いなくカカシの唇のそれで、だが何の反応できないうちに相手の姿は掻き消えてしまった。
 慌てて周りを見渡せばサスケとサクラの後ろ姿は既に遠く、通りを歩く人々も特にナルトへ注意を払う様子もなく、自分だけが挙動不審で、恥ずかしさに走って帰るしかなかった。
「二回目は」
 演習場だった。
 午後の明るい陽の下で、しかし修行は過酷を極めた。子供たち三人は猛特訓にチャクラ切れを起こし、立ち上がることすらままならず、枯れた茶色い芝草に転がっていた。
 この程度でへばっているようじゃ困るんだが、ま、今日はこんなところだな、と。内容は厳しくともあくまで軽い口調で、カカシは総評らしき言葉を口にした。そうしながら、手近にいたナルトを助け起こした。









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