ヒミツのごちそう 4
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助け起こしながら、唇は額に触れてきたと思う。が、すぐに、
「お前、ひどい顔」
とカカシは笑い、ナルトの鼻や頬についた泥をざっと払い落とした。あまり優しくない雑な手付きだった。
いきなり何をするんだとリアクションする体力すらも、その時のナルトには残っていなかった。倒れている他の二人も同様、カカシやナルトに注意を払う余裕はなかっただろう。
冷えるから早く帰れよ、と言い残してカカシは帰ってしまい、その日の修行は終了となった。
難易度の高い課題に悔しい思いをした一日だったが、最後のキスのせいで悔しさは倍増だった。
「三回目は?」
それも、忘れられない出来事だ。それまでの二回とは一線を画していた。
「何か……暗かったってばよ。路地裏で」
「そうだったね」
やはり任務が終わった後の帰り道。
冬の昼間は短い。日はとっくに暮れていたが、夕飯にはまだ早い時間だった。
任務が大成功した時は別として、カカシが班の教え子たちに外食を御馳走することなどめったにない。もちろん、ナルトだけに奢ることなど考えられない。
帰り道、カカシにもう少し一緒にいたい、先生の仕事が終わるまで待っているから、と何度か食い下がってみたことはあったが通用したためしがなかった。
イルカと一楽に行くのは母親から外食の許可を得て、定時終業後に店で待ち合わせすれば必ず実現するのに、カカシはあまりにも勝手が違っていた。
遅くまでミナトと共に仕事に精を出しているのに、そのあとミナトと一緒にクシナの作る夕食や夜食を食べに来ることさえしないのだ。特にナルトが部下になってからは一度も。
ナルトにとってカカシは難攻不落という言葉そのものだった。
が、その日は違った。デートしようと言い出したのはカカシの方だった。彼は行きつけの甘味屋にナルトを連れて行った。
夢じゃないかと思った。定番の普通の栗入り汁粉がやたらと美味かった。カカシにとっては何週間に一度偶然手に入るかどうかもわからない、貴重な余暇を、ナルトと過ごす時間に充ててくれたのだと、身に染みて理解した。
どんなに嬉しくて幸せかを精一杯アピールしてみせることしかできなかった。その別れ際に建物の隙間の暗がりに誘われて、キスをした。
それまでの二回は肌に唇で触れるだけの軽いキスだったが、その時は唇と唇を丁寧に合わせて舌まで絡めるようなきちんとした本物の口づけだった。
暫しの間、久し振りに互いを味わう行為に耽った後、カカシはあっさりとナルトを放した。まっすぐ家へ帰るようにと指示してくる相手は、もうナルトだけのカカシではなく、普段のカカシだった。
やはり走って帰るしかなかった。幸福の絶頂のような、絶望のどん底のような、自分一人ではどうしようもない苦しさに襲われて、その夜は眠れなかった。夕飯のことも、母親や父親とどんな話をしたかも、全部上の空だ。
口内で粘膜を合わせる感触が、ナルトの中に残っていた記憶を強烈に揺さぶった。初めて共に過したあの夜の経験がリアルに甦り、抱き締める腕の強さや口の中の感触に留まらず、腰の奥まで疼いた。
臍と尻のあわいを繋いだ辺りに生じるそれに人知れず身悶えるしかなく、独り寝の辛さにうちのめされた。