オールウェイズ 6

 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 TOP





 岩壁の途中にある古書所に、発見した書物を届け終え、二人は再び外に出た。
 目の前の階段は、上下に別れて断崖絶壁に張り付くように、細長く伸びている。
 カカシは眼下に広がる新しい里を少し眺め、それから上を向いた。
「火影岩に登ろうか」
 午後中、蔵に閉じこもっていたんだから、ちょうどいい散歩になるだろ、と岩盤の上へ出る階段を昇り始める。
 そんなふうに誘われれば、断る理由など何も無い。ナルトは後に続いた。
 組まれた丸太や削られた岩を踏みしめ、ゆっくりと上がってゆく。
 こうして階段を登るのは久し振りだ、とナルトは思った。小さかった頃は、自分の庭のようにここを行き来していた。人目を盗んでペンキの入ったバケツやロープをせっせと運び上げたりした。
 しかしその後は……少なくともカカシに師事してからは、こんなふうに階段を使ったことはなかったはずだ。
 フリークライミングがチャクラコントロールのトレーニングに最適だと気付いてからは、険しい傾斜を手足だけでよじ登り、時間を作って何度も挑戦した。やがて跳躍力がついてくると、この崖の高さや岩塊の複雑な重なりを使って、日々の身体の調子を計り整えるようになった。
 自由自在に駆け登り、飛び降りるのが愉しい。
 昔から数多の木ノ葉の忍たちがそうしてきたように、ナルトもこの断崖に育てられた一人となった。



 夕方の陽射しが傾いていく。
 空は一面の金色に染まり始めた。



 里の喧騒は次第に遠のき、静寂の中で二人分の足音だけが、ざっざっと耳を打つ。
 少し前を行く見慣れた背中は、景色へと溶け込んで、光の中に霞んで見えた。
 夢の中へと引き戻されるような錯覚の中、ナルトは縺れた記憶の糸を必死に辿っている。
 起き抜けの時、確かに感じていた引っかかりを懸命に手繰り寄せる。
(さっきの、あれは)
(あれって……あれってば、本当にあった出来事だったってこと……?)
(ただの夢じゃなくて?)
 願望が見せた幻だと思っていた。
 違うのか。まさか、実在する人間だったのか。あれは。
(あの人って)
 あの声だった。
(この人……なのか?)
 違和感無く、誰の声よりもこの耳に馴染む、いつものカカシの温かな声が。確かに言った。
 お前、変わらないねぇ、と。
 かつて毛布でその小さな身体を包んだのは、この手だと。その手で彼はナルトの鼻を無造作につまみ上げて起こして、そして自分は目を覚ました。
 ついさっきの出来事だ。
 夢ではなく、今に繋がる確かな現実。
 瞬間、頭がぐらつき、平衡感覚がおかしくなった。ナルトは堪らず足を止めた。
 呆然と遠ざかる背中を見上げる。
 あれはカカシだったのか。
(う、うそ)
(そんなことって……)
 しかし考えれば考えるほど、疑う余地は無くなっていく。









禁・無断複写複製転載転用 純愛無用