ヒミツのごちそうおかわり 1
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息子が自分で下着を洗うようになったので、ああ、大人になっちゃったんだなぁと思う。
最近は、クシナが買い求めた覚えのないパンツが、知らないうちに物干し場にあったりする。乾いたものをまとめて取り込む時になってそれが混じっていることに気付き、これは果たして息子が自分で買ったのか、それとももしや、息子の恋人であるあの子の……カカシの、趣味なのだろうか、などと畳みながら考え込んでしまい、人知れず頭を抱えたりもする。
そして大抵、その数分後には、
「あ! 母ちゃん、オレのはいいって。自分でやるからさー、なんだよもー、触んなよー」
などとぼやきながら現われる息子に嫌な顔をされ、持ち去られてしまうのだ。
さ、寂しい。
そんなに嫌がらなくたっていいじゃないか。触んなはないだろう、いくらなんでも。思春期が終わったら謝らせてやる。
あーあ、と溜息をつく。あんなにちっちゃくて可愛かったあの子は、もういないのだ。このままどんどん大人になっていっちゃうのだ。
付き合っている相手に洗わせることはあるかもしれないが、自分はもう無理なんだ。
泣きたい。
しかも、その洗うことがあるるかもしれない相手は、何故か、野郎だ。
息子の相手は、どういうわけか、可愛気など欠片もない立派な大人の男だ。
……カカシだって、あの子だって、あんなにちっちゃかったのに。
いつの間に、あんなに一人前になったのか。いや、……いっちょまえに、なりやがったのか。
小さな頃から人並み外れて賢しい、胆力のある子だった。が、修行や任務がない時は、墓の前で悄然と立ちすくむか犬と話しているかのイメージしかなく、このままこの里でちゃんと成人して働きながら生き永らえていけるのだろうかと、何度も心配になったものだった。
あんなあの子にもようやくとうとう人生の伴侶が!と思うと、むず痒いような幸せな気持ちになるのだが、同時に、何がどうしてそうなってしまうのか!という憎たらしさも湧き起こる。
とにかく、そんな調子で、洗濯物の件は最近のクシナの身の回りに起こった出来事の中では、結構な大事件なのだが、それを夫に話す気にはどうしてもなれないのがこれまた寂しいことだった。
家族で食事をする時に、その日にあったことは洗いざらい話題にするこの一家において、それは息子の成長と共に必要になった変化なのかもしれないが。
話せないよね。むしろ聞きたくないよね?
本当に、出来過ぎた夫とはよく言ったものだ。今も彼は彼女の目の前で、件の洗濯物を畳んでいる。
そう、そのぱんつ、今手にもってるやつ、と話を振りたくても我慢。
時々家事を手伝ってくれるのはいい。それはいいのだが。
例えばクシナが洗った皿を片付ける前に、昼間の仕事の疲れで力尽きて眠りについてしまい、朝起きると、全部綺麗に仕舞われていて……そういう時の食器棚は、自分が整理した時よりもよほどきっちりと整っているので、以前は自分がダメな嫁のように感じてしまい、素直に感謝できなかったりもしたけれど、最近はそういう考え方は無くなった。あの頃は若かったのだろう。
だから、彼が洗濯物を畳んでくれること自体には全く文句ない。有難いことだと思う。
でもでも、タイミングが。ほら。
たったったったと軽快な足音がした。リビングに顔を覗かせた息子が、あっ!と声を上げかけて、飲み込んだ。
クシナは固唾を呑んで見守る。
父ちゃん、いいって、オレのは畳まなくて、と来るかと思ったが、来ない。
クシナと視線がかち合うと、息子はさっと顔を隠すように、また扉の向こうへ行ってしまった。
「ナルト?」
気配にミナトは振り向いたが、もうその姿はそこにはない。
「なんだ、あいつ」
どうやら、母親には言えても父親には言えないことがあるらしい。本当に難しい年頃だ。