だったら月を壊せばいいじゃない 後

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 とんかつ屋はキャベツがおかわり無料の店だった。ナルトの皿のキャベツを勝手に高く盛り上げてにこにこしているカカシに、そんな嫌がらせに負けるものかと全部食べ尽くして、どうだまいったかと言ってやったのだが、そのどや顔が可愛いと言われて脱力した。
 それからカカシの家に行って、一緒にお風呂に入って、いちゃいちゃして、ベッドで続きをして、ナルトは眠りについたのだが。
 しばらくして目が覚めた。隣で寝ているはずのカカシが何故か起き出していて、テーブルで作業をしている。
 薄目を開けて、カカシの手元を透かし見た。
 日付が日付だし、自分が眠った後を狙ってする作業だとしたら、もしかして、と思ったのだが、やはり。暗い部屋の中、小さな読書灯に照らされたそこには、ナルトが想像した通りの光景が広がっていた。
 おおお、サクラちゃん! オレはついに! 決定的な現場を目撃してしまった!
 マ ジ で 今 年 も み っ つ!
 用意してるってばよーーーッ!?
 ナルトは恐ろしさに竦み上がる。目を覚ましたこと、この光景を見てしまったことを、カカシに悟られては絶対にならない。
 ぎゅっと目を瞑り、しかしこわいもの見たさで再度瞼を開き、覗き見る。
 宛名のかかれたポチ袋、そこには遠目でも確かに自分たち三人の名前があった。カカシは新券を几帳面に折りたたみ、封をする。
 彼はそうやって最初の三つを作り終えると、おもむろに四つ目の袋に宛名をしたため始めた。
 あ!
 もしかしてサイの分か? ……ありえる。充分過ぎるほど有り得る。
 あいつ、カカシ班に入るまでお年玉とかもらったことあんのかな、と考え掛け、なんとなくしんみりしそうになってまた広がりかけた妄想を慌てて振り払う。
 だがカカシの手は止まらない。
 え、もう一個? 五つめ? 誰っ!? ……隊長……? うそ、後輩にもやるもんなのか? だったらオレも将来後輩に配んなきゃじゃんかよ! なんだそれわけわかんねーむちゃくちゃだってばよ先生。っていうか、ヤマト隊長、貰って嬉しいか? まぁ嬉しくないことはないだろうけど……どんなリアクションすんのかな。気になる。
 あ、も、す、すげーむずむずする。
 なんていうか、体中が痒い感じ。
 逃げ出したい。ここにじっと息を潜めて寝た振りなどしていては、気が狂ってしまいそうだ。今すぐ外へ飛び出して、地の果てまで走り去りたい気分だ。カカシの周囲に対するその広い心というか、緩すぎる寛大さと言うべきか、海よりも深く空よりも大きな思い遣りと慈しみは、じわじわと周りを浸食し、いつか世界を覆う衝撃波となって、やがて月をも打ち砕くだろう。逃げ出したい。
 カカシは更に大量のお年玉袋を作っていく。
 どうもナルトの同期達の分も全部作っているようだ。殉職と産休で、カカシが面倒を見なければならないナルトと同い年の部下は八人に増えた。本当は九人だが、実質は八人だ。悔しいことに。
 遠くて良く見えなけれど、六つきっちり耳を揃えているところを見ると、間違いない。
 どれだけ人に与え施せば気が済むのだろう、この人は。優し過ぎる。
 先生、そういうのはカカシ先生の長所かもしんねーけど、ちょっとやりすぎだってばよ。
 あいつらには必要ねーって!
 そのシカマルとチョウジといのとキバとシノとヒナタの分は。
 オレが全部貰ってやる。



「おい、ナルト起きろ」
「……カカシ先生……?」
「お前、すごくうなされてたけど大丈夫だった?」
「……え……?」
 夢だったのか。いや、違う。
 見れば、テーブルの上はすっかり片付けられていた。
 お年玉を作るカカシの横顔を見ていたら、何だか気持ちがぐっちゃぐちゃになって、そのまま意識を失って、世界が崩壊するようなやたらスケールがでかい夢を見たようなことは覚えているけれど……何だか正直、眠った気がしない。
「ちょっと……変な夢、見たかも」
「怖い夢か?」
「や、そーゆーんじゃなくて、なんかさ……」
「おいで」
「……う、な、なんかさ、先生に優しくされ過ぎるのは、む、むずむずするってばよ」
「え? なにそれ」
「お願い近寄んないで先生!」
「えー? なんでー?」









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